日本語のシリーズ
獣の奏者
The Beast Player
全4巻(完結) 本編はI〜IVの4巻。外伝『刹那』(2010年)は数に入れていません。講談社青い鳥文庫版は同じ本編を全8巻に分けています。
作:上橋菜穂子
文:ブックリンカー編集部 / 更新日:2026/10/17
『獣の奏者』は、上橋菜穂子が2006年に『I 闘蛇編』『II 王獣編』として発表し、のちに『III 探求編』『IV 完結編』を書きついだ長編ファンタジーです。舞台は、真王(ヨジェ)と大公(アルハン)という二つの権力が並び立つリョザ神王国。戦のために飼いならされた巨大な獣「闘蛇」と、真王の権威の象徴とされる空飛ぶ獣「王獣」が、国の成り立ちと深く結びついています。
主人公のエリンは、闘蛇の世話をする村に生まれた少女です。獣をよく観察し、なぜそう動くのかを自分の頭で考えぬく性格で、やがて「獣とことばを交わすことはできないか」という問いに向きあうことになります。この物語の大きな魅力は、獣をかわいい仲間としてではなく、人とはちがう理屈で生きる生きものとして描いている点です。飼いならすことと、心を通わせることは同じなのか。観察し、記録し、試す過程は、まるで生物学者の研究記録のようです。
IとIIは少女エリンの成長の物語で、一続きの話になっています。IIIとIVは、それから時がたった後の物語です。獣をめぐる国家の秘密、戦争の影、そして研究を続けることの責任といった、より大人向けのテーマが前面に出てきます。巻が進むほど政治の比重が大きくなり、読みごたえも増していきます。
読む前に知っておきたいのは、この物語が命をめぐる重い場面を避けずに描いていることです。1巻の冒頭には、エリンの母が掟によって処刑される場面があります。闘蛇や王獣が人を傷つける描写、戦で多くの人が死ぬ場面もあります。やさしいだけのファンタジーを想像していると驚くかもしれないので、手渡す前に大人がひと言伝えておくとよいでしょう。
同じ作者の「守り人シリーズ」が冒険と国どうしの駆け引きで引っぱる物語だとすれば、こちらは一人の人間が一つの問いを一生かけて追いかける物語です。どちらから読んでも楽しめますが、読後に考えることの多さでは『獣の奏者』が一歩深いと言えます。
読む順番のコツ
必ず刊行順に読みましょう。IとIIは一続きの話で、Iだけではひと区切りがつかないため、2冊をそろえて渡すのがおすすめです。IIまでで一度物語は落ち着くので、小学生のうちはIIまで、IIIとIVは中学生以降に、と分けて読むのもよい方法です。外伝『刹那』は大人の恋愛や出産が描かれるため、本編を読み終えた中学生以上向けです。
こんな子に
長編を読みなれた小学6年生〜中学生、大人まで。動物や生きもののしくみに興味があり、「なぜ?」を考えるのが好きな子、重いテーマにも向きあえる子に。
読む順番
刊行順(講談社の単行本・講談社文庫の巻立て)。講談社青い鳥文庫版は同じ物語をより細かく分冊しています。
- 1

- 2

- 3
獣の奏者 III 探求編
時がたった後の物語。国の秘密と戦の影が大きくなる。
- 4
獣の奏者 IV 完結編
IIIと一続きで、本編の完結巻。
- 5
獣の奏者 外伝 刹那
本編のあいまの出来事を描く中編集。大人向けの内容。
当サイトで紹介している巻は、タイトルからあらすじ・対象の目安のページに移れます。ほかの巻も紹介してほしいときは本のリクエストへ。
読み終えたら、次の1冊
- 守り人シリーズ(『精霊の守り人』から)(シリーズ)
同じ上橋菜穂子の代表作です。獣の研究より、女用心棒バルサの戦いと国どうしの駆け引きで引っぱる物語なので、IIまで読んで夢中になった子が次に読むのにちょうどよく、1冊ずつの区切りもつけやすいシリーズです。
鹿の王
上橋菜穂子が獣と病と医術を描いた長編で、本屋大賞の受賞作です。生きもののしくみを観察して答えを探すエリンの姿にひかれた子に向きます。『獣の奏者』より登場人物も分量も多く、中学生以上向け。高学年向けの角川つばさ文庫版もあります。
ゲド戦記(『影との戦い』から)
力をもつ者が、その力とどう向きあうかを描いた、海外ファンタジーの古典です。王獣を「操る」ことの意味に悩むエリンの物語が心に残った子に。翻訳ものらしい硬めの文章で、中学生からの次の一歩になります。
よくある質問
- Q. 何年生から読めますか?
- 長編を読みなれた小学6年生ごろからが目安です。漢字や架空の国のことばが多く、1冊がかなり厚いので、本好きな子でも5年生以下には少し重めです。ふりがなが多く分冊されている講談社青い鳥文庫版なら、小学生でも手に取りやすくなります。内容の重さも考えて、IとIIを先に渡すのがおすすめです。
- Q. 全部で何巻ですか?青い鳥文庫版とのちがいは?
- 本編はI 闘蛇編・II 王獣編・III 探求編・IV 完結編の全4巻で完結しています。このほかに外伝『刹那』があります。講談社青い鳥文庫版は同じ本編を全8巻に分けたもので、闘蛇編が1・2巻、王獣編が3・4巻、探求編が5・6巻、完結編が7・8巻にあたります。物語の中身は同じです。
- Q. IIで読むのをやめてもいいですか?
- かまいません。IとIIは少女エリンの物語としてひと区切りがつくように書かれていて、作者ももともとはIIで終える予定でした。IIIとIVは時がたち、大人になったエリンが国の秘密と戦の問題に向きあう物語で、政治や責任の話が中心になります。中学生になってから続きを渡すのもよい方法です。
- Q. こわい場面や悲しい場面はありますか?
- あります。Iの冒頭で、エリンの母が掟によって罰を受けて命を落とす場面があり、闘蛇や王獣が人を傷つける描写、戦で多くの人が死ぬ場面も出てきます。残酷さを強調する書き方ではありませんが、動物ものの明るい話を想像していると驚くので、渡す前に「重い場面もある本だよ」とひと言伝えておくと安心です。
- Q. アニメ『獣の奏者エリン』と原作のちがいは?
- アニメは2009年にNHK教育テレビで放送された全50話の作品で、原作のIとIIにあたる部分を映像にしています。III・IVの物語はアニメには出てきません。エリンが村で暮らす子ども時代がふくらませてあり、ヌックとモックなどアニメだけの人物も登場します。アニメから入った子には、原作でエリンの考えの深さを味わってほしい作品です。